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読書と映画

読んだ本、見た映画について感想を書いています。
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【書籍:社会小説】 ある町の高い煙突

【評価】★★★★☆

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著者:新田次郎
出版:文藝春秋


明治時代の日立鉱業の銅鉱山による煙害を巡る話です。

最初、明治時代・公害・銅山というキーワードから、てっきり、田中正造に関する話なのかと思ったら、そうではなく、田中正造と同時期に近いところで発生した公害の話でした。
明治時代の公害にまつわる話は、田中正造が有名ですが、田中正造が戦った足尾銅山以外にも、当時、日本では、多くの公害が発生していたことを改めて知ることとなりました。

本書の主人公は、日立鉱業の銅山の煙害で、稲や作物、山林の木々などが枯れ死してしまうという甚大な被害を被った村のリーダー、関根三郎(実在の関右馬允氏をモデルにした人物)ですが、話は、関根三郎側からだけでなく、会社側の視点からも描かれます。

そして、たいてい公害に立ち向かう話となると、力のない小さな農民たちが、政府の後ろ盾もある巨大企業に果敢に戦いを挑むという構図になりますが、本書の場合は、会社側にも公害解決に向け真摯に取り組もうとする人間がおり、最終的には会社の社長も煙害解決の推進派であったことから、被害者側と加害者側の協力関係で、ひとつの解決が図られます。

関根三郎が、自分の利益のためでなく村のためにリーダーシップを発揮するとともに、会社の技術者と信頼関係を築き、解決を図っていたという展開は、現在にも通用する話であろうと思います。

最終的には、150m以上の高さの巨大な煙突を立て、煙を上昇気流に乗せ拡散することで、被害を激減させることとなります。
その後、昭和に入って、煙に含まれる硫化物を除去する技術が確立されて、完全に煙害はなくなったそうですが、当時は、そのような技術が確立されていなかったことから、煙害を完全になくせはしないものの、村が消滅するほどの被害を及ぼす状況を改善するための、次善の策として、高い煙突が立てられたわけです。

ここに至るまでも様々な苦労があり、煙害で日本各地で騒動が起き始めていることに危惧した政府が、会社に煙を希釈するための煙突を作らせるのですが、それは見事に失敗、煙は希釈されるどころか、関根三郎の住む村を更に直撃する結果となります。

再度、政府は、別の煙突を立てさせますが、今度は、煙が鉱山の事務所を覆い、あまりの刺激で仕事ができなくなったため、その煙突は1ヶ月で閉鎖。
後に、「阿呆煙突」という名前がついたそうです。

当時も、政府はふざけていたわけでなく、真面目に考え指示を出したのでしょうが、残念ながら「阿呆煙突」に象徴されるように、無能、阿呆だったということなのでしょう。

結局、政府の指示に懲りた会社社長は、関根三郎や会社技術者の調査やアドバイスを受け入れ、巨大煙突を立てることを決意。
当時、巨大煙突を立てても、被害が広域に拡散するだけというのが定説だったのですが、海外の研究や実績を調べた結果、巨大煙突が効果があるのではないかということで、巨額を投じて、当時では世界一の高さの煙突を立てることになります。

この煙突を立てるあたりにやり取りも、会社側の煙害を解決しようとする決意が並々ならぬものを感じさせ、胸を打たれます。


松倉謙造(会社の総務課長)は、510尺(150m超)の大煙突を建てることを発表した。
「その大煙突ができれば、おそらく、この村の煙害はなくなるでしょう」
松倉がそう結ぶと、
「大煙突ができても、被害がなくならなかったらどうするのだ」
その質問に対して松倉は、すぐ答えた。
「大煙突が失敗すれば、その出費損失のために、会社はつぶれるでしょう。そうなれば、煙はでなくなるでしょう」
しいんとした。それ以上質問しようとする者はなかった。


これくらいの決意がなければ、公害を解決することはできないのかもしれません。

煙害というと、もはや遠い過去ではありますが、現在は、福島の原発被害が、この煙害(煙害は、鉱山の周囲8kmで起こったそうです)を上回る規模で発生してしまいました。
果たして、東電は、この日立鉱山のような決意を持って原発被害を解決する気概があるのでしょうか。
ぜひ、その気概を臨みたいものです。

なお、本書は、煙害と言う少し固めのテーマですが、関根三郎と9歳年下の家同士が決めた許婚とのエピソードも面白く、固いテーマを和らげてくれます。

三郎が煙害への対応について、村の一部の人間から反発を受け、取り囲まれ殴られそうになったところを、当時16歳の許婚が薙刀を持って駆けつけ、一気に蹴散らすエピソードや、三郎が許婚との結婚の許しを得ようと許婚の家の祖母に話をしようとしたところ、祖母はてっきり、婚約を解消しようと話にきたのだと誤解し、話をさえぎり、翌日、親類縁者を集めて、仰々しく話をさせられ、婚約解消が祖母の誤解だと分かって大笑いになるというエピソードなど、なかなか面白いです。

この日立鉱山の煙害の話は、なかなか知られざる話ですが、昔の人たちも智恵を絞って、問題を解決していたのだなと言うことがよく分かり、現在の問題を解決する上でも、なんらかの示唆する点があると思います。


【『ある町の高い煙突』より】
 
要するに相手を理解し合うということの努力が不足するために、お互いが敵意を抱くことです。こうなると、金銭だけでは処理することはできなくなるのです。被害者側は会社側に誠意がないものと思いこみ、会社側は被害者たちの要求は、不当なものだと思うようになると、いつまで経っても、解決はつかないのです
 




【その他のレビューブログ】
「公害とたたかう物語は、多くが悲劇的で怨念にみちたものになりがちですが、この『ある町の高い煙突』は、こんな歴史があったのなら、人間を信じようという気持ちにもなります。」という感想がありましたが、怨念の歴史として書かれていないので、ある種の清清しさを感じる作品でした。

電網郊外散歩道
http://blog.goo.ne.jp/narkejp/e/e6c16fdcf347129741b2130b2ccff34e

小太郎的ほんの些細なつぶやき
http://kotaronet.at.webry.info/201305/article_1.html

アマゾン カスタマーレビュー
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有毒ガスを高い煙突を作って、遠くへ拡散するということが、真の煙害解決かと疑問の思いました。しかし、試行錯誤の末、有毒ガスを除去する設備を設置し完全解決まで至ったと知り、やっと、胸のつかえがおりた気がしました。
[ 2019/02/28 07:27 ] [ 編集 ]
現在からすると、真の解決策からは程遠い対策だと思いますが、当時、技術料が限られている時代の取り組みとして、色々と考えさせられる本でした。
公害が発生した時点で、工場の操業を止めるのが一番早い解決策なのでしょうが、そうはできないので対応に苦労したり、誰かが被害をかぶらざる得ないというのが、非常に簡単ではない話なのだなぁと思いました。
[ 2019/03/03 21:43 ] [ 編集 ]
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