fc2ブログ

読書と映画

読んだ本、見た映画について感想を書いています。
2024 02123456789101112131415161718192021222324252627282930312024 04

【書籍:歴史】 覇王の家

【評価】★★★★☆

haoh_house.jpg
著者:司馬遼太郎
出版:新潮社


司馬遼太郎による「家康論」といった趣の作品。
ですので、家康の生涯を追った小説ではなく、家康のいくつかの人生の断片を切りながら、家康や家康の出自となった三河武士について、司馬遼太郎的視点で分析・解説をしているものとなります。

司馬遼太郎的に見れば、信長、秀吉の二者は、独創的な発想に基づき、天下取りの道を進んだが、家康には独創性はなく、同時代のライバルを模倣して、結果的に天下を取ることになったとしています。

「家康物まね説(?)」で面白い視点だと思ったのは、家康が、物まねをするに当たってお手本としたのが、戦国期に常に同盟関係にあった織田信長ではなく、家康にとって、常に最大の脅威であり、敵手であった武田信玄であったという論。

家康は、武田家滅亡後、武田家の家臣団を大量に召し抱えて、それらを配下の井伊直政に配属させて、徳川家最強の赤備え部隊を作ったという話は有名ですが、確かに、そういった点からしても、家康が、信長より信玄を模倣の手本として尊敬していたという説はうなずけるものがありました。

なお、井伊の赤備えの話で、「なぜ、井伊直政に武田の家臣団を配属させたか」という逸話が紹介されており、どのような逸話かというと、井伊直政は、小姓時代は家康の寵童(男色の相手)だったことから、家康は直政を非常に可愛がっていたため、直政に武田家の遺臣を配属させることで最強の部隊を作らせ、手柄が立てやすくするため・・・というもの。
家康にも、そういった面での配慮(?)があったんだなぁとおどろくやら、意外やら。

こういった一面はあるものの、基本的には、家臣をえこひいきしたり、苛烈な処分を下すということはほとんどなかったそうで、反旗を翻した家臣ですらも、戻ってきたら黙って受け入れ、そのことは一切不問にするといった姿勢であった、ということが本書では指摘されています。

信長の恐怖や苛烈さでの支配や、秀吉の人たらしの能力で人々を魅了する能力といったものは、家康は全く無縁ではあったというのが司馬遼太郎さんの見解ではありますが、家康は、苛烈な処罰や好き嫌いを明らかにしない姿勢が、家臣団に安心感を与え、その安心感が、家康の家臣団の結束につながっていたとのこと。

家臣からも家康のことは、「殿は、物事をハキと言わざる人なれば」などと評価されていたようで、指示を出すにもYESともNOとも取れるようなあいまいな物言いをし、指示された家臣は、家康の指示をどう解釈すべきか、家臣の皆々に聞きまわって、それで解釈を下して命令を実施していた・・・という面が多かったようです。

しかし、こんな姿勢でよく、天下の主になれたよなぁ・・・本当に世の中、不思議なものという気がします。

「ハキと物を言わない」ということが、家臣が自身で考え判断する力につながり、それが家臣の質の向上につながったのが良かったのかもしれない、と後々、天下を取った後、家臣たちはそのように評価したそうですが、この評価、どちらかというと後付の解釈でしかないよなぁと思います。

いずれにせよ、独創よりも、模倣の方が最終的に勝つ(天下を取る)というのは、歴史の不思議さなのかもしれません。
独創性に欠ける私なんかからすると、少々、励まされる話ではあります。

ただ、司馬遼太郎さんの見解では、家康の独創を恐れる思想が、江戸幕府という形で日本全体に浸透し、260年続いた江戸幕府によって、独創を嫌い、保守的な島国的な性格に日本人を矮小化してしまったとのこと。

家康個人の性格が、日本人の性質にまで波及してしまったというのは、なかなか大胆ではありますが、江戸幕府の政治方針が日本人の性質に及ぼした影響というのは大きかったことは、可能性としては大いにあるので、司馬遼太郎的見解のとおりであると、家康の保守的過ぎる性質が、負の面も大きかったとすると、家康も非常に罪深いといえるかもしれません(笑)。


【『覇王の家』より】
 
家康にとってもっとも大切だったものは人間の関係であり、このためにはどういう苦汁も飲みくだすというところがあった。
 





【その他のレビューブログ】
「いわゆる小説ではないと思います。徳川300年の安定社会をつくった三河武士集団を通しての日本人とは何かという評論だと感じました。」というコメントがありましたが、小説というよりは、司馬遼太郎氏の家康論といったところでしょう。

Extra Notes
http://oiwak.tumblr.com/post/7306030268

物語三昧~できればより深く物語を楽しむために
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20081123/p1

草を食べる男のひとりごと
http://etre522.blog.fc2.com/blog-entry-173.html

日本の新聞の見方
http://blog.livedoor.jp/qingmutong-aoki/archives/3390044.html

日本史探求
http://misakijapanhistory.seesaa.net/article/310655926.html

アマゾン カスタマーレビュー
http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4103097418/ref=cm_cr_dp_see_all_summary?ie=UTF8&showViewpoints=1&sortBy=byRankDescending

スポンサーサイト



[ 2015/07/16 10:30 ] 歴史 | TrackBack(0) | Comment(0)
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL


ページ最上部へ

プロフィール

kappa1973

Author:kappa1973
 
読んだ本と映画について、感想を書いていきたいと思います。
 
評価は5段階で・・・
★☆☆☆☆:焚書坑儒!
★★☆☆☆:時間の無駄
★★★☆☆:損はない
★★★★☆:良い作品!
★★★★★:殿堂入り!?

アクセス数
アクセスランキング
[ジャンル]: 映画
196位
[サブジャンル]: レビュー
103位
カレンダー