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読書と映画

読んだ本、見た映画について感想を書いています。
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【書籍:ルポ】 定本黒部の山賊 -アルプスの怪

【評価】★★★★☆

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著者:伊藤正一
出版:山と渓谷社


黒部にある山小屋の一つ、三俣小屋の小屋主であった伊藤正一さんの手によって書かれた戦後直後の北アルプス黒部渓谷の状況、体験記です。
話のはじめが、偶然のきっかけで、山小屋の小屋主になったものの、その小屋には山賊が居座っていたという、なかなか衝撃的な出だしで、まさにびっくりな展開です。

著者の伊藤さんは、その山賊たちと付き合うようになり、ついには一緒に山小屋の番をするようになったり、山小屋で一緒に生活するようになるのですから、伊藤さんもなかなか胆の座った人物であるわけです。

山賊たちも、下界の人々の噂が噂を呼び、凶暴な山賊というふうに思われていましたが、実際は山賊ではなく、黒部を狩場にする猟師であったわけです。
そして、山賊もとい、猟師たちも、それぞれ個性的で、伊藤さんの筆で、その個性が生き生きと描かれていて、山の生活の楽しさ自然と伝わってきます。

例えば、南アルプスの奥地から、ふもとの山まで食料の買い出しに行くのですが、その役目を一人の猟師に依頼し、その猟師も「明後日に帰ってくる」と約束して、はるばる町まで出かけていきます。
その猟師は、約束の日時ピッタリに帰ってきたものの、なぜか手ぶら。
理由を聞くと、「買おうとしているところへ、バスが来てしまったもの。乗らなきゃ約束の時間までに帰ってこられねじゃねえか」との答え。
それを聞いた伊藤さんも、さすがに、「あれだけ遠いところを、はるばると空足を踏んで帰ってくる神経には、おそれいったものである」と感想を書いていますが、この常人とは、ちょっと神経の異なる山賊たちの姿には大笑いさせられたり、ほのぼのとさせられたりします。

また、猟師の一人に、クマを発見する名人がいたそうですが、彼は山歩きの時も遠くにいるクマにばかり気をとられていたので、木の根や岩につまづいて、足の先は生傷が絶えなかったというエピソードが紹介されていて、この話などは、星空ばかりに気を取られて転んでしまって、住人に「先生は、遠い星のことはよく知っていますが、肝心の足元のことはわからないみたいですな」とからかわれたギリシャの哲学者タレスのエピソードをほうふつとさせます。
名人とか天才とか言われる人は、その特殊な才能に反して、日常のことは全然ダメという話はよく聞きますが、クマ発見の名人も、そんな一面が垣間見えて、なかなか微笑ましいのでした。

また、本書では、黒部にまつわる様々な怪異譚も紹介されています。
どこから「おーい」と呼ぶ声が聞こえ、その声に「おーい」と反応してしまうと、反応した人は行方不明になってしまうという話が山賊たちの間では語り継がれていて、「おーい」と呼ぶ声を山賊たちは非常に恐れていたなんていうエピソードは、怖いもの知らずの山賊たちにも、かわいいところがあるんだなと思ってしまいます。

伊藤さんは、戦時中は、ジェットエンジンの開発をしていた技術者で、バリバリの理系人間ということもあり、山賊たちの語る怪異譚は、端から信じていなかったようですが、伊藤さん自身が、山中で何度となく「おーい」と呼びかける声を聞いたということも書かれており、そうなってくると、山賊たちの語る怪異譚も、にわかに信憑性が出てきて、黒部の不思議さや人知の及ばぬ自然の何かを感じさせます。

また、怪異譚で面白かったのは、遭難者の白骨を山中に埋葬するものの、1年くらいすると地表に現れてきてしまい、何度埋めても同じことが起きるという話。
この怪異譚の種明かしは、後書きに書かれているのですが、このような現象を引き起こしているのは、冬季に1mの長さにもなる霜柱が地中の白骨を地表に押し出しているからということでした。
予想外もしない種明かしで、自然の力のすごさを思い知らされました。

山にまつわる話になると、どうしても自然の猛威が中心になってきますが、本書は自然の脅威や魅力だけでなく、山賊たちとの交流-人間同士の交流の面白さも描かれていて、人間社会、自然の双方のアプローチから黒部が描かれている、とても面白い作品でした。


【『定本黒部の山賊 -アルプスの怪』より】
 
山で生活する男たちにとって、大自然との戦いの中において、命を賭けても助け合わなくてはならない場合が往々にしてある。私と山賊たちとの関係もその例外ではなかった。
 




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[ 2015/06/01 12:56 ] その他ルポ | TrackBack(0) | Comment(0)
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