【評価】★★★☆☆著者:今野晴貴
出版:朝日新書読んで、久々に怒りを覚えた本でした。
ブラック企業やそれを助長する弁護士、社労士の存在は、本当に酷いものがあります。
最近は、有名企業では、ワタミやすき家、ユニクロ辺りがブラック企業としては取りざたされ、特に、ワタミ、すき家は報道を見ていても酷いものがありますが、本書を読んでみても、やっぱり、ワタミ、すき家は酷すぎると感じました。
すき家を運営しているゼンショーは、アルバイトに対する残業代不払いで訴えられたわけですが、その訴えに対する抗弁が酷すぎる。
ゼンショー曰く、「すき家で働いているアルバイトの雇用形態は業務委託であって通常のアルバイトのような雇用形態ではない。業務内容・スケジュールは、アルバイト自身が自ら決めており、ゼンショーが業務を直接指示しておらず、委託した業務をアルバイトの裁量でこなしているので、働く時間は、アルバイト自身の裁量で決められている。ゼンショーは、あくまで委託した業務量に対して賃金を払っており、働いた時間に払ってはいない」といった趣旨の理屈で、残業代はそもそも支払う必要が無いと主張。
アルバイト採用は時給で行っているであろうに、こんな無茶苦茶な主張をするとは・・・。
端から、安い労働力を使い捨ててやろうという思想が見え見えで、読んでいて腹ただしいこと、この上なしでした。
こういった企業が取る戦術は、どんな無茶な主張になろうとも、とりあえず、訴訟を引き延ばし、経費がかかるようにすることで、資本力に乏しい原告側(訴えるのは元アルバイトなど、資金力の乏しい個人ですから)が、資金切れであきらめるのを待つというもの。
そして、こういった戦術を勧めるのが、企業側に付くブラック弁護士であるわけです。
ただし、この戦術も、原告側が引き延ばし戦術に耐えきってしまえば、理屈では完全に原告側に利があるので、企業側が負けて支払をしなければならなくなります。
結局、得をするのは、引き延ばしにより訴訟費用を稼ぐことになるブラック弁護士だけという構図。
さすがに、弁護士が社会正義を実現するためにいるという幻想は全く抱いていないにせよ、あまりに正反対の立場にいる弁護士の存在には、げんなりさせられました。
本書では、訴訟費用を稼ぐことを第一目的に、訴訟を引き延ばしたり、さまざまな妨害や、明らかに誤った法律解釈を振りかざす行為を、「法制度の攪乱」と述べています。
弁護士は、本来であれば、法制度を理解し、正しく解釈し(もちろん、法律の規定はあいまいな部分もあるので、解釈の違いが論争のテーマになるわけですが)、その上で、議論をするはずなのですが、ブラック弁護士の場合、詭弁であろうと、間違った解釈であろうとお構いなしに、とりあえず、どんな方法であろうと勝てれば(もしくはお金を稼げれば)良いというスタンス。
確かに、それでは、法制度を攪乱することによって、利益を得ていると言われても仕方がないでしょう。
しかし、考えて見ると、ドラマ「リーガル・ハイ」の主人公である弁護士・古美門研介なんかは、この基準から考えると、ブラック弁護士そのものであるわけですが、「リーガル・ハイ」の人気を考えると、こういうブラック弁護士の方が、世の中に通用しやすいのかもしれません。
本書では、「法制度の攪乱」がまかり通る理由として、訴訟制度の在り方にも言及しています。すなわち、訴訟の世界で、一番効果的な方法が資金力に物を言わせるというもの。
引き延ばし戦術なんかは、まさに資金力格差を利用して、相手の兵糧が尽きるのを待つという、その最たる方法なわけで、結局、金がある方に勝ち目があるというのは、非常にやるせないものがあります。
博奕の最高の必勝法は、勝つまで賭け続けるというものですが、要は、博奕に勝つには資金力が一番重要ということ。
ブラック企業との訴訟の構図も、まさに、博奕の構図とそっくりなわけです。
訴訟が結局、博奕と変わらない構図だとすると、資本力の乏しい人達は、ブラック企業に搾取された上、泣き寝入りするしかないわけで、どうにかならないのかと、憤りを覚えます。
ただ、ワタミもゼンショーも、ブラック企業というレッテルが貼られた影響で、業績が著しく悪化しているようなので、搾取される側としては、声を上げ、企業の不当行為を訴えることで、世論による鉄槌を下させるということが、一番、効果があるのかもしれません。
実際、私も、ワタミやすき家の自殺した従業員などへの対応を見て以来、全く、足を運ばなくなりましたし、企業のイメージが悪化すれば,思った以上に効果があるのではという気がします。
ブラック企業は、結局のところ、経営者の人に対する考え方が色濃く反映しているように思われます。そして、ブラック企業を助長する弁護士などの士業も、その人の在り方が、そのような立場に立たしめる結果になっているのでしょう。
そう考えると、ブラック企業の増加やブラック士業の増加は、他人に対する思いやりは配慮に欠けた人が増えていることの結果のように思われ、社会や社会を構成する人間の劣化が招いているのかと考えると、先行きの暗さを覚えます。
ただ、いずれにしても、引き続き、ワタミやすき家には行かないことだけは確かだなということをあらためて決意させられたのでした。
【『ブラック企業ビジネス』より】 ブラック企業は、従来の社会関係の「信頼」を糧としてこれを食い潰していく。 |
【その他のレビューブログ】ブラック企業を助長する士業(弁護士や社労士)について言及されていることから、弁護士事務所のブログなどでも、本書の感想を書いているところが結構多いようです。
kojitakenの日記
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20131221/1387593541読書録゛ ‐ どくしょログ
http://pukarix.hatenadiary.com/entry/2014/12/29/051325haniwa Press!
http://chemibo.jp/haniwa_press/p5939/林田力書評
http://www.hayariki.net/cul/black.html薔薇、または陽だまりの猫
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http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4022735317/ref=cm_cr_dp_see_all_summary?ie=UTF8&showViewpoints=1&sortBy=byRankDescending【弁護士・社労士事務所による書評】白浜の思いつき
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http://sr-partners.net/archives/51921036.html
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