【評価】★★★★☆
著者:山崎豊子
出版:新潮社
【最後の作品】
自衛隊の潜水艦と民間漁船の衝突事故を題材とした作品。
山崎豊子氏の最後の作品となっており、第3部まで予定されていたところ、第1部までしか書き上げることができず、逝去されてしまいました。
ただし、1部では、潜水艦と民間漁船の衝突事件は余すことなく描かれており、潜水艦側の主張と民間漁船側の主張がそれぞれの立場から描かれています。
自動車事故と同じで、双方の運転操作のまずさが相乗効果で、最悪な事故に結びついてしまた印象があり、どちらか一方が、少し注意して操船したり、危険回避を余裕をもって行えば、事故を回避できたのではないかとも感じました。
最悪な事故は、そうそう起こるものではないと考えると、逆に、事故当事者の何気ない一つ一つの行動の不運な積み重ねが揃って起こるのだろうと思います。
その行動の一つでも回避できていれば事故にならなかったことを思うと、油断、慢心などに心しないといけないと感じました。
【綿密な取材活動】
本作、1部までで著者が逝去されたので、未完の作品ではありますが、2部、3部の取材ノートが編集部によって付けられており、これが非常に興味深い内容でした。
一言で言うと、作品を作るのにすさまじい取材を行っているんだなぁというところです。
山崎豊子氏の作品は、現実の事件に即しつつ創作作品となっているわけですが、事件を相当取材していることは、作品を読めば実感できます。
それでも、本作に付いている取材ノートを見ると、想像以上に取材を重ねていて、おそらく、その情報でノンフィクション作品が作れるのではないかとも感じます。
それだけの取材を重ねつつ、創作作品という手法を選んでいるのは、小説家として一番ベストな表現手法が創作作品だと感じていたからなのかもしれません。
【被災者遺族の心情】
山崎豊子氏の逝去により新たな作品が読めなくなるのは残念ですが、まだ、読んでいない作品も数多くあるので、まだまだ読んで行きたいと思います。
過去にもいくつか作品を読んだことがありますが、山崎豊子氏の作品で秀逸だと思うのは、災害時の被害描写。
被災者遺族の心情の描写が胸に迫るものがあり、今回の作品でも、その描写分量は多くはありませんでしたが、他の作品同様、読んでいて胸にこみ上げてくるものがありました。
この心情描写の秀逸さが、作品をぐっと、現実味のあるものにしていますね。
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【『約束の海』より】
遺書を書いて任務に当たる職業は、今時の日本にはそうないだろう、その分、誇りと覚悟をもって当たっていたはずだ
(書き出し)
東京湾の浦賀水道は、東西を房総半島、三浦半島に抱かれた船舶の航路である。
(結び)
畏れを抱きながらも、揺るがぬ決断がそこから生まれる気がした。
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