【評価】★★★★☆
2006年/イギリス
監督:エドワード・バザルゲット
主演:アレクサンダー・シディグ中学生・高校生の頃、三国志にはまっていた私は、その影響で、古今東西の戦史にも興味が広がり、色々と書籍を読んだり調べたりしていました。
そういった戦史の中で、非常にインパクトのあったのは、紀元前3世紀に、カルタゴのハンニバルが、2倍以上あるローマ軍を包囲戦により殲滅したカンナエの戦い(当時は、カンネーの戦いと表記されていました)でした。
カンナエの戦いによるハンニバルの包囲戦術は、包囲殲滅戦の手本とされ、2000年以上後の第一次世界大戦の時にも、ドイツがシュリーフェン・プランとして、ハンニバルの包囲戦術を元に作戦構想を立てたりと(この作戦自体は失敗に終わりましたが)、後世にも大きな影響を及ぼしました。
本作は、そんな屈指の戦術家として名を馳せた名将ハンニバル、その生涯を描いた作品となりますが、果たしてハンニバルを捉えきることはできているでしょうか。
【ストーリー】
====================================紀元前3世紀、ローマとアフリカの都市国家カルタゴは戦争状態にあった。
カルタゴの将軍ハンニバルは、ローマを撃滅するため進軍を開始する。
しかし、制海権はローマに押さえられていたため、ハンニバルは、スペインからフランス、そしてイタリア半島と陸路を渡ってローマへの侵攻を試みる。
ローマ侵攻には、ローマ側の裏をかき、険峻なアルプス山脈越えを敢行、兵の半分を失うという犠牲を払いながらもイタリア半島への侵入に成功する。
そして、イタリア半島内で、数度にわたりローマ軍を撃破、紀元前216年に行われたカンナエの戦いでは、2倍の兵数を有するローマ軍を包囲戦により殲滅、ローマ軍は6万人もの戦死者を出す結果となる。
しかし、カルタゴ本国では、政争などにより、ハンニバルへの補給や支援が行われなかったため、ハンニバルは、ローマへの侵攻を行うことができず、その後、10年以上、決定打を欠くままイタリア半島に釘付けとなってしまう。
ローマは、その10年の間に、カンナエの戦いでの痛手から回復し反攻を開始する。
ローマの将軍スキピオは、ハンニバルの戦略・戦術を研究し、その手法を模倣し、カルタゴ本土へ侵攻し、カルタゴの守備軍を撃破する。
そのため、カルタゴ本国は、ハンニバルをイタリア半島から呼び戻しスキピオに対峙させるが、ハンニバルは劣勢な状況と、スキピオによるハンニバルの包囲戦術をそっくり模倣した作戦に、ザマの地で敗れる。
ザマの戦いに敗れたハンニバルは、その後、他国に亡命するが、ローマの追っ手が迫ったため、自殺しその生涯を閉じる。====================================本作は、全体的には、ナレーションを多用した構成で、NHK「その時歴史は動いた」のような、ドキュメンタリータッチの内容となっています。
そのため、映画というよりは、歴史の再現・解説番組のような感じですが、無駄を省いた要点を押さえた簡潔な表現・映像で、ハンニバルの事績を知るのに非常に分かりやすい内容で、予想外の良作でした。
本作は、カルタゴとローマの関係が悪化し、ハンニバルが将軍として軍を率いるあたりから始まります。
ハンニバルが取った戦略は、制海権をローマに押さえられている海路ではなく、陸路でイタリア半島に侵入するというもので、ローマの不意を突くため、険峻なアルプス山脈を越えるルートを取ることにします。
これは、ハンニバルのローマとの戦いにおいて有名な「アルプス越え」の逸話ですが、ナレーションと映像をうまく組み合わせて、アルプス超えの難行が分かりやすく表現されていたと思います。
また、アルプス越えの際に、道を巨岩が塞いでいたのですが、その岩をハンニバルの知恵で取り除くといったエピソードも出てきたりして、なかなか丁寧な作りの作品です。
ちなみに、巨岩を取り除く方法とは、岩を薪で火にくべ熱した後、雪で冷たく冷やしたワインをかけることで、岩を砕くというものです。
・・・こんな方法で岩が砕けるのかって??
原理的には、熱くなった物が急速に冷えると、物が急激に縮小することでヒビなどの損傷が起きる(例えば、熱したガラスのコップに、冷水を注ぐとひび割れが生じるのと同じ原理)という物理の知識を応用したものです。
ハンニバル、さすが名将と称されるだけあって、多方面に才能があったのですね。
そして、なんとかアルプスを越えたものの、その兵数は半分にまで減少、生き残った兵も病気や負傷で損耗している状態。
果たしてこんな状態でローマ軍に太刀打ちできるのかと危ぶまれる状況ですが、緒戦でローマ軍に勝利したハンニバルを見た北イタリアの部族が味方につき、軍の増強を図ることにも成功します。
更に、トレビアの戦い、トラシメヌス湖畔の戦いと立て続けにローマ軍を破り、ローマは非常な危機意識を持つこととなります。
残念ながら、本作では、この2つの戦いは、非常にあっさりと描かれています。
おそらくは、最大のクライマックス-カンナエの戦いに焦点を絞ったということで、これは、まぁ仕方がないかもしれません。
この敗戦により、ローマは、ハンニバルとの直接対決は危険と判断し、ハンニバルとの直接対決を避け、持久戦によるハンニバルの消耗を誘う作戦を行うこととします。
一方、ハンニバルは、ローマを誘い出すため、ローマ領内を荒らし回ります。
結局、ローマは、ハンニバルがローマ領内を好き勝手に荒らし回るのに我慢できず、決戦を仕掛けることとします。
この辺りの、ローマ内の持久戦で我慢し続けようという主張と、決戦を避けるのは臆病だという急進派の主張のぶつかり合いや、逡巡する様子はなかなかリアルでした。
籠城戦でもなんでも、我慢の戦術というのは、よほど統率力のあるリーダーがいるか、我慢の先に明白な未来が見えていない限りは、その戦術を持続するのは難しいのだろうなと思います。
結局、我慢しきれず、決戦を挑んだローマの姿勢は、チャンスが来るまで堪え忍んで待つということも大切ということの教訓を見る思いです。
そして、ローマは、ハンニバルの軍の2倍、約8万の兵力を動員して、決戦を挑むことになりますが、これが、包囲殲滅戦として有名な「カンナエの戦い」となります。
本作では、カンナエの戦いを、戦術や経過をナレーションで解説しながら映像で見せる手法で、非常に分かりやすく描かれていたと思います。
包囲殲滅戦術のお手本と言われるカンナエの戦いですので、その経過を少し詳しく記してみたいと思います。
(1)最初の布陣
両軍とも中央に歩兵、両翼に騎兵という布陣でした。
ハンニバルは、中央の歩兵を弓状に配置することで、中央の歩兵が押し込まれるまでの時間を稼ぎ、その間に騎兵を使ってローマ軍を包囲しようと考えていました。
(2)最初の衝突
両軍とも、正面の敵に対峙することとなります。
(3)中央突破
中央のカルタゴ軍(ガリア歩兵)はローマ歩兵に押され後退。
ガリア歩兵の中央部が後退し、ローマ歩兵は、そこを中央突破しようと殺到します。
そのため、ローマ歩兵は、ガリア歩兵のへこみに突入する形で、V字型の陣形へと変っていきます。
(4)騎兵の突破
ローマ軍より優勢であったカルタゴ軍の騎兵が、ローマ騎兵を撃破。
また、中央の歩兵(ガリア歩兵)の左右に配置していたカルタゴ歩兵を投入し、ローマ歩兵の左右を押し込む形で、両側から攻撃を開始。
(5)ローマ軍を包囲
ローマ騎兵を打ち破ったカルタゴ軍の騎兵が、ローマ歩兵の後方に回りこみ、ローマ軍を完全包囲。
ローマ歩兵は、中央突破を図ろうと殺到したこともあり、密集しすぎて身動きがとれず、カルタゴ軍に完全包囲され殲滅されてしまう。
カンナエの戦いでは、6万ものローマ兵が戦死する結果となりますが、本作では、ローマ兵の死体が地面に大量に横たわっている中に、ハンニバルが立ち尽くす姿を上空から映し出す映像で、その壮絶さが表現されています。
平原一面に横たわるローマ兵の死体の映像は、戦争の悲惨さをとてもうまく表現していると思いました。
カンナエの戦いには勝利したハンニバルでしたが、その後は、本国からの補給や援兵などがなかったことから、首都ローマへ攻め込むことができず、更にローマの持久戦によりイタリア半島に釘付けとなったまま、時間を浪費することとなってしまいます。
この持久戦は、カンナエの戦いから、おおよそ14年ほど続きます。
14年もの間、持久戦を続けたローマも気が長いと言えば気が長いですが、逆の見方をすれば、カンナエの戦いでの敗北から立ち直るまでに、14年もの歳月が必要だったということなのでしょう。
それだけ、ローマにとっては、カンナエの戦いは衝撃的だったと言えるのでしょう。
そして、カンナエの戦いから立ち直ったローマは、ハンニバルの戦術を研究し尽くしたローマの将軍スキピオを起用し反撃に出ます。
スキピオは、今度は、ハンニバルの使った戦術をことごとく取り入れ、カルタゴを追い詰めていきます。
そして、カルタゴ本土のザマにおいて、ハンニバルの用いた包囲殲滅戦術を使い、ハンニバルの軍を打ち破り戦争に終止符を打ちます。
ハンニバルは、自身の天才的な軍事能力によりローマを寸前のところまで追い詰め、最後は、自身の戦術を研究し身につけたスキピオに敗れるという、いわば、自身の天賦の才と対峙して敗れるという結末ですが、まさに、天才的戦術家であったと思える一生涯を過ごした人物であったなというのがよく分かる作品でした。
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