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読書と映画

読んだ本、見た映画について感想を書いています。
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【書籍:社会派小説】 大地の子(全4巻)

【評価】★★★★☆

daichinoko.jpg
著者:山崎豊子
出版:文藝春秋



【日本と中国の関係を描いた大作】

中国残留孤児となった陸一心を主人公に、中国の文化大革命、日中合作による製鉄所建設、残留孤児の肉親捜しと広範なテーマを描いています。
本作も、中国での綿密な取材を元に描かれており、後書きには、中国政府の情報統制による取材の難しさなどにも触れられているので、本作、大作であることの大変さに加え、取材の困難さも加わり、大変な苦心作だったことが、直に伝わってきます。

また、主人公の陸一心は、日本人ではありますが、6歳の時に敗戦となり、満州(中国)に取り残され、中国人として育ったため、中国人的な感覚・文化を持った人物として描かれており、中国人の文化や思想様式を知ることのできる面白さもあります。

そして、製鉄所建設を通じて、日本と中国の考え方の違い、ぶつかり合いなども描かれており、現在とは多少違う面があるとは思いますが、現在も起こっている日中間の相違を考える上でも、参考になる面があるようです。



【文化大革命の嵐】

序盤は、残留孤児となった陸一心が、中国人に拾われ育てられますが、文化大革命が吹き荒れる中国で、日本人の出自であるが故に、それこそ、死線をいくつもかいくぐらなければならない苦難の道を歩むことになります。

特に、中国人の養父・養母によって、苦心して大学まで出してもらったものの、出自が日本人であるということで、強制収容所送りになる展開のすさまじさ。

カンボジアにおいて、ポルポト派が、自国の知識人を全て強制収容所送りや虐殺して、国をボロボロにしたという悪夢がありましたが、本書を読むと文化大革命もその状況にかなり似たような状況だったようです。
毛沢東死後、文化大革命は終結し、その後の指導者によって、「文化大革命によって、中国の発展は30年遅れた」と、文化大革命は痛烈に批判されることになりますが、知識や技術を持つ人を抹殺しようという発想自体が不可解でしかありません。

本書で描かれる強制収容所の様子や、些細な理由から突如としてつるし上げが行われ苛烈な懲罰が加えられるなど、理屈が通らない世界ほど恐ろしいものはありません。
本書では、文化大革命の状況は、一つの大きな山場となっています。



【日中合作の製鉄所建設プロジェクト】

文化大革命が終わり、陸一心は、養父の命がけの働きかけにより、強制収容所から解放され、日中合同による製鉄所建設プロジェクトに携わることになります。

山崎さんが、色々取材しているなぁと感じたことの一つに、日本の製鉄所の様子を描いた1シーン。
「環境規制で、敷地の20パーセントを緑化することが義務づけられている工場であるから、グリーンベルトが多く、しかも煙が殆ど出ていない。」

この記述、今もある日本の工場に規制を掛けている法律、工場立地法に関するものです。
以前、仕事で工場立地法について調べたことがあるので、こんなところまで調べて書いているんだと、びっくりするやら、自分が知っている法律が出てきてうれしい(?)やら。

製鉄所建設プロジェクトは、日中間の考え方の相違、それこそ交渉術から仕事の考え方、情報の扱い方、責任の取り方まで大きく違い、そのぶつかり合いが見所になっています。

特に興味深かったのが、製品品質に関する考え方。
中国側の方が適当なのかと思いきや、中国は製品に錆一つあっても不良品扱いするのに対し、日本は、機能面に問題ないのでそこまで追求する必要はないとの主張。
中国側の主張が無意味に厳しすぎるのではと思う反面、日本の製造業の品質の良さは、細かなところまで気を配っている点にあったのではないかと思うと、日本側の方が少々ルーズで、複雑なところでした。

また、製鉄所建設プロジェクトが、中国側の権力争いの具に利用されたり、純粋な経済活動であるはずの話が、政治に翻弄される当たりも、中国らしいなぁと思うところでした。

本作、文化大革命の嵐から、日中の文化や考え方の違い、中国内の権力闘争まで幅広いテーマが綿密に描かれており、日本と中国の関係を知る上でも非常に面白い作品でした。




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【『大地の子』より】
一体、あの日本人たちの精神構造は、どのように成りたっているのだろうか。曾て武力を以て中国大陸を侵略し、無辜の人民まで殺戮しておきながら、国交回復では、『遺憾』という曖昧な表現で、過去の罪業を詫びたのみであった。

(書き出し)
北京の空は、紺青に澄みわたり、秋の陽が眩く地面を照しつけている。

(結び)
一心は、父の胸中を察しつつも、固く口を閉ざした。船は、滔々たる長江を下って行った。
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【書籍:社会派小説】 約束の海(未完)

【評価】★★★★☆

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著者:山崎豊子
出版:新潮社



【最後の作品】

自衛隊の潜水艦と民間漁船の衝突事故を題材とした作品。
山崎豊子氏の最後の作品となっており、第3部まで予定されていたところ、第1部までしか書き上げることができず、逝去されてしまいました。

ただし、1部では、潜水艦と民間漁船の衝突事件は余すことなく描かれており、潜水艦側の主張と民間漁船側の主張がそれぞれの立場から描かれています。

自動車事故と同じで、双方の運転操作のまずさが相乗効果で、最悪な事故に結びついてしまた印象があり、どちらか一方が、少し注意して操船したり、危険回避を余裕をもって行えば、事故を回避できたのではないかとも感じました。

最悪な事故は、そうそう起こるものではないと考えると、逆に、事故当事者の何気ない一つ一つの行動の不運な積み重ねが揃って起こるのだろうと思います。
その行動の一つでも回避できていれば事故にならなかったことを思うと、油断、慢心などに心しないといけないと感じました。



【綿密な取材活動】

本作、1部までで著者が逝去されたので、未完の作品ではありますが、2部、3部の取材ノートが編集部によって付けられており、これが非常に興味深い内容でした。

一言で言うと、作品を作るのにすさまじい取材を行っているんだなぁというところです。
山崎豊子氏の作品は、現実の事件に即しつつ創作作品となっているわけですが、事件を相当取材していることは、作品を読めば実感できます。
それでも、本作に付いている取材ノートを見ると、想像以上に取材を重ねていて、おそらく、その情報でノンフィクション作品が作れるのではないかとも感じます。

それだけの取材を重ねつつ、創作作品という手法を選んでいるのは、小説家として一番ベストな表現手法が創作作品だと感じていたからなのかもしれません。



【被災者遺族の心情】

山崎豊子氏の逝去により新たな作品が読めなくなるのは残念ですが、まだ、読んでいない作品も数多くあるので、まだまだ読んで行きたいと思います。
過去にもいくつか作品を読んだことがありますが、山崎豊子氏の作品で秀逸だと思うのは、災害時の被害描写。
被災者遺族の心情の描写が胸に迫るものがあり、今回の作品でも、その描写分量は多くはありませんでしたが、他の作品同様、読んでいて胸にこみ上げてくるものがありました。

この心情描写の秀逸さが、作品をぐっと、現実味のあるものにしていますね。



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【『約束の海』より】
遺書を書いて任務に当たる職業は、今時の日本にはそうないだろう、その分、誇りと覚悟をもって当たっていたはずだ

(書き出し)
東京湾の浦賀水道は、東西を房総半島、三浦半島に抱かれた船舶の航路である。

(結び)
畏れを抱きながらも、揺るがぬ決断がそこから生まれる気がした。
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【書籍:ビジネス小説】 商社審査部25時(知られざる戦士たち)

【評価】★★☆☆☆

syousya25hour.jpg
著者:高任和夫
出版:講談社



【商社の仕事】

私がよく知らない世界の仕事ってどうなっているんだろうということに興味があり、最近は、こういった様々な業界の仕事にまつわる小説も手にすることが多くなっています。

今回は、商社のお仕事。

山崎豊子氏の書いた「不毛地帯」は商社にまつわる話が書かれていて、商社の仕事の一端を知ることができますが、今回、たまたま商社の仕事に関する小説が眼に入ったので、読んでみようと思った次第。
「不毛地帯」とは、違った視点で商社の仕事が描かれています。



【事業再生と船舶ビジネス】

商社は物を右から左へ流す-売るのが仕事でありますが、本作では、商品の売り先の企業が経営難に陥ったことで売掛債権が回収困難になり、経営困難企業の最大の債権者となったことから、この企業の事業再生に係わっていくという展開。
そして、もう一つは巨大船舶の売買契約を締結させるビジネスにまつわるエピソード。
この2本建てで描かれています。

ストーリー的には、企業の事業再生の方が面白かったように思われます。



【裁判所と企業の落としどころ】

事業再生は、会社更生法に基づいて、裁判所の関与・調停のもと、会社更生手続が進められていきますが、裁判所の思惑、主人公側の企業の思惑、経営困難となった企業の思惑が交錯し、スムーズに話が進んでいきません。

裁判所側が、法律の精神に基づき、理念的であるものの、現実から乖離し、机上の空論的な方針に傾きがちになる一方、主人公側の企業は、これを奇貨として、自社の利を得ることをもくろんでいるのではないかと疑われ、関係者の信頼が得られないといった、行政、企業サイドそれぞれの思惑や事情が現れていて興味深いところでした。

最終的には、裁判所と主人公の企業サイドの意向が収斂し、うまく落としどころが見つかるわけですが、裁判所と企業、まったく違う理念で動く組織間で落としどころを探るのは非常に大変で、苦労も多いなぁと思う話でした。



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【『商社審査部25時』より】
敵にたち向かうと同時に、あるいはその前に、内部の敵を捜し、内部の人間の失敗を糾弾する。そして、そのことによって、その組織は内から崩壊する。

(書き出し)
3月29日。木曜日。

(結び)
このとき、「第二・十文字丸」は入江の彼方に姿を消した。
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【書籍:企業小説】 頭取の首

【評価】★★☆☆☆

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著者:山田智彦
出版:文藝春秋



【40年に及ぶ銀行内の権力闘争】

主人公・前原を軸とした40年に及ぶ銀行内部の権力闘争を描いた大河長編作品。
大河長編と書くと聞こえがいいのですが、40年の歳月が、無駄に長いだけの気がする(笑)。
40年の歳月というのは、主人公・前原が支店長になってから、役員、頭取と出世の階段を駆け上がり、代表権を持った会長に君臨して、最後は銀行の不祥事の責任を負って辞任するという、大変長々とした時間が描かれています。



【気長な復讐劇】

冒頭に、前原のパワハラにより自殺に追い込まれる部下の話が出てきて、その子供が終盤、前原への復讐劇を果たすというストーリーがあるわけですが、40年後に復讐を果たすって、だいぶ気が長いです。
戦後、身分を隠して生きながらえているナチス党員を狩る、ナチスハンターばりに気が長いように思えます。

前原が栄耀栄華を極めた末に復讐を果たしても、十分、人生を楽しんじゃった後の話だから、復讐の効果が薄いんじゃないかなぁと思ったりもして・・・。



【意外と無駄なエピソードが多い?】

本作、40年にわたる時間軸で描かれているので、やたら長い伏線がある一方(前述の復讐劇なんかがそれ)、伏線がある重要な話なのかと思いきや、全くストーリーとは絡まない、よく分からないエピソードや人物も大量にあって、このあたり、整理するか生かされると、もうちょっと読み応えあるかな、などと思いました。

前原と、その上役にあたる海老原という人物が権力闘争を行うわけですが、海老原が、「前原も目が曇ったな。あの銀行合併話は、わしが持ちかけたのじゃ。見た目はうまそうな話だが、内情は非常に難しく、失敗すれば前原の経歴に傷が付き、引きずり下ろすことができる、うしし・・・」みたいなことを言いつつ、話の流れで、銀行合併のエピソードが出てくるのですが、あっさり、合併話に成功して、前原の経歴には何の影響も与えず・・・なんて感じで、そこは、もうちょっと絡ませようよと思ったりもするわけで。

その他、銀座のママさんが重要な役割を担うのかと思いきや、結局、全く存在意義がないキャラクターだったり、余計な人物が多い気がします。「三国志」的な、いろんなキャラクターが出てくる小説だと割り切れば、良いのかもしれません。

そして、もう一つ思ったのが、客の情事をテープに録音する趣味の料亭の女将とか、女性を睡眠薬で眠らせて、その間に内ももに入れ墨を入れる男とか、どことなく、変態チックな人物が多いのも、びっくりでした(笑)。



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【『頭取の首』より】
継続は人をマンネリ化し、変化は人の気持を鼓舞する。

(書き出し)
東京の数ある盛り場、例えば新宿、渋谷、池袋、上野、浅草、それに赤坂、青山、六本木、そして原宿等々にも、時代の流れと共にかなりあからさまな流行り廃りが見られる。

(結び)
近くの妙本寺の境内まで足を伸ばし、清浄な空気を胸いっぱい吸い込んでから、今夕の散歩を終えることにした。
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【書籍:経済小説】 不毛地帯(全5巻)

【評価】★★★★★

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著者:山崎豊子
出版:新潮文庫



【伊藤忠商事・瀬島龍三氏】

戦時中、日本陸軍のエリート参謀として太平洋戦争の作戦の中軸に参画し、終戦後、満州でソ連軍に捉えられ11年間のシベリア抑留生活、帰国後は、商社に入り、防衛庁の戦闘機調達や石油資源開発などに関わり、その中で、日本の政財界の裏側にもどっぷりつかっていく、そんな人物を描いた作品。

小説なので、思い切った設定かと思いきや、実はモデルになった実在の人物がおり、その人物が、伊藤忠商事の会長・瀬島龍三氏。
もちろん、事実は、小説のような内容そのままではないですが、瀬島氏の経歴が、シベリア抑留から、政財界の裏側に関与し、政界のフィクサーと呼ばれたことは事実なので、事実を思いはせながら、興味深く小説を読むことができます。

ちなみに、瀬島龍三氏については、先日、「沈黙のファイル -「瀬島龍三」とは何だったのか」という本を読み、瀬島氏が「不毛地帯」のモデルになったことが書かれていたので、今回、本書を読んでみた次第。



【戦闘機調達を巡る闇】

山崎豊子氏の作品は、長編作品が多いですが、ボリュームを感じさせない面白さで、どんどんと読み進めることができました。

小説の最初はシベリア抑留の話で、その過酷さは想像を超えるものがあり、よく生きて帰れたものだと思います。シベリア抑留の章も、非常に興味深く読むことができる部分ですが、圧倒的に面白いのは、帰国後、主人公が商社入りし、商社マンとして活躍する部分。

最初は、防衛庁の戦闘機調達を巡る商社間の駆け引きが描かれ、調達機決定に当たっては、戦闘機の性能は当然考慮に入れられるものの、裏では、政治家の利権が絡み合い、この利権を上手く利用して、主人公の商社が推す戦闘機が調達機に選定される結果になります。

実際、田中角栄さんが絡んだロッキード事件なんかは、まさに、この小説に書かれているような話でしたし、色々な取材に基づいて書かれているのでしょう、リアル感のある内容が、山崎豊子さんの小説の魅力ですね。



【ドラスティックなサラリーマン生活?】

その後、日本の自動車会社とアメリカの自動車会社ビッグ3の一つとの合併を巡る話、イランでの石油開発を巡る話と、骨太でビッグビジネスをテーマにした話が続き、これまた読みごたえがあります。

自動車合併会社を巡るストーリーでは、ライバル会社に敗北、ライバル会社の腕利き商社マンとして登場する鮫島氏が、キャラ立ちしていて、鮫島氏の存在が小説を面白くしています。
更に、ビッグビジネスを巡る商社間の駆け引きの合間(?)に、主人公の会社での権力闘争なんかも描かれ、サラリーマンの社会が、ここまでドラスティックなのかは、はなはだ疑問ですが(少なくとも、私はこんなドラスティックなサラリーマン生活は送っていない(笑))、この本読むと、就職ランキングで、商社人気も分かる気がします。

主人公が、少々、綺麗に描かれ過ぎな感じもありますが、商社を巡る、政財界の裏表など、ドロドロとした世界でありながら、魅力的な世界が描かれており、非常に面白いビジネス小説でした。



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【『不毛地帯』より】
それでいい、島国のわれわれは、日の丸民族意識に凝り固まり過ぎて、戦に敗れたのだ、その教訓を生かして国際的な視野にたって日本の将来を考える、それがわれわれが血を流して購った尊い教訓だ

(書き出し)
社長室の窓の外に大阪城が見え、眼下に帯のような堂島川が見える。

(結び)
シベリアの無上の空を、七色の光が不気味なほど美しく彩り、“生きて歴史の証人たれ”と、いかなる過酷な運命の下でも生き抜けと諫めた故谷川大佐の声が、オーロラの中から、壹岐の耳にはっきり聞えて来た。
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kappa1973

Author:kappa1973
 
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★★★★☆:良い作品!
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