【評価】★★☆☆☆1999年/アメリカ
監督:ジュリー・テイモア
主演:アンソニー・ホプキンス
原作:シェークスピア「タイタス・アンドロニカス」古代ローマを舞台にした復讐劇ということなので、どんな内容か全く分からないものの、とりあえずレンタルしてみました。
しかし、こんなにショッキングな内容だったとは・・・。
【ストーリー】
========================================ローマ帝国の武将タイタスは、長年の戦いの末、ゴート族の征服に成功し、ゴート族の女王、その息子達を捕虜としてローマに引き連れ凱旋する。
そして、凱旋の儀式として、ゴート族の女王の長男の四肢をばらばらにし、その遺体を火にくべてしまう。
その後、ゴート族の女王は、ローマ皇帝の目にとまり、生き残った息子共々、奴隷の身分から解放され、ローマ皇帝の皇后として迎えられる。
皇后としての地位を得たゴート族の女王は、自分の長男を殺したタイタスに復讐をするため、策略を練り始める。
まず、手始めに、皇帝の弟に嫁いでいたタイタスの娘を、女王の息子達に犯させ、娘の舌を引き抜き、両手も切断してしまう。
さらに、皇帝の弟も暗殺し、その罪を、タイタスの息子2人になすりつけてしまう。
また、タイタスには、息子2人の命乞いに腕を切り落として皇帝に差し出せばよいとだまし、タイタスは、片腕を切り落とすはめになるが、結局、息子2人は処刑されてしまう。
タイタスは、娘を乱暴し、息子2人を処刑させ、自身の手を切り落とさせた張本人が女王であることを察知し、女王への復讐を開始する。
タイタスは、生き残った唯一人の息子を征服したゴート族の地に派遣し、兵を集めさせローマを攻める準備を進める。
更に、自分の娘を犯した女王の息子達を捕らえて殺し、その肉をパイ生地に練り込むこととする。
その上で、タイタスは、皇帝と女王に対し、反乱軍を率いた息子との仲裁をするとの名目で自身の邸宅に招き、食事を振る舞うが、その食事は女王の息子の肉を練り込んだパイであった。
タイタスは、食事の場で、女王が行った非道を公表し、それによって汚された娘を皇帝と女王の目の前で殺してみせる。
更に、今度は、女王が食べたパイは、女王の息子の肉で作ったパイであると明かし、衝撃を受ける女王をタイタスは刺殺する。
しかし、タイタスは、怒った皇帝に刺殺されてしまうが、タイタスの息子がその皇帝を殺してしまう。
そして、皇帝を失ったローマでは、タイタスの息子が皇帝の座についたのであった(完)。========================================シェークスピアの戯曲を原作とした作品です。
過剰に残虐な復讐劇の連続で、気が滅入るというか鬱な気分になってしまう作品でした。
シェークスピアについてよく知っている訳ではありませんが、こういう残酷な場面だけを売りにしたような作品も書いているんですねぇ・・・。
ちょっと、シェークスピアについての印象が変わりました。
映画の出だしは、台所で少年が兵隊のおもちゃで遊んでいると、窓の外で爆発が起き、外から飛び込んできたタイタスにより救い出されるものの、救い出されて連れてこられた場所は、コロシアムでローマ兵達の観兵式の場だった・・というもの。
その後、この少年が、復讐劇の各場面に立ち会うことで、観察者となって復讐劇の進展を知るというような仕掛けになっています(ただ、後半は、少年も復讐劇の登場人物の一人に組み込まれて、劇中の人物になってしまいますが)。
また、本作は、現代、近代、ローマ時代の衣装、設備などが渾然一体となった設定になっていて、ローマ時代の甲冑を着ているけど、バイクに乗って銃を持っていたり、皇帝の衣装なども現代のモードファッションみたいだったり、はたまたゲームセンターが出てきたりします。
そのため、最初のうちは、どういう時代設定にしているのか(ローマなのか、現代にテーマを設定し直しているのか)が分からず、少々混乱気味で見ていましたが、実は、時代設定に意味は無く、独特な世界観をあえて作り出しているもののようです。
さて、本作の復讐劇のきっかけは、主人公であるローマの武将タイタスが、ゴート族の女王の長男を四肢をばらばらにし、火で焼き尽くすという残酷な方法で処刑したことによります。
その後、ゴート族の女王は、皇帝に見初められ皇后への地位に上り詰めます。そこから、女王によるタイタス一族に対する復讐が開始されるという展開。
まず、手始めに皇帝の弟に嫁いでいたタイタスの娘が、女王の息子達に陵辱され、舌を切り取られ、両手も切り落とされるという残酷な仕打ちが行われます。
映画では、その場面は、直接的な表現ではなされていませんが、舌を切り取られ、両腕を切り落とされたタイタスの娘が、沼地の木にくくりつけられるというシーンが出てきます。
タイタスの娘は、両腕を失い、腕の代わりに木の枝が差し込まれるという姿なのですが、どことなく、オズの魔法使いに出てくるカカシを彷彿とさせます。
残酷な仕打ちと、オズの魔法使いのカカシといったユーモラスな存在を彷彿とさせるギャップとの差が、逆に残酷さを際立たせることとなり、結構、ホラー映画などで残酷さにも見慣れているつもりの自分でしたが、この場面あたりで、かなりげんなりしてきました・・・。
更に、皇帝の弟も女王の息子達によって殺され、その罪は、タイタスの息子2人になすりつけられ、それによって息子2人は逮捕されます。
そして、息子の助命に、タイタスの腕一本が必要とだまされ、自ら腕を切り落とすものの、結局、息子2人は処刑されてしまいます。
精神的・肉体的苦痛をこれでもかとタイタスの上に降り注がせるこの展開、かなり、シェークスピアはサド的な性格とみました!
ここで、ようやく、タイタスは、娘や息子達を傷つけ奪った張本人が女王であると察し、反撃に出ることにします。
ただ、この反撃方法も、女王に輪をかけて残虐で変態的な方法です・・・。
まずは、自分の娘を陵辱した女王の息子達を捕らえ、逆さづりにして、のどをきり、そのまま失血死するまで放置・・・。
そして、死んだ息子をパイ生地に混ぜ込んで、女王に食べさせ、女王に精神的ショックを与えた上で殺すというもの・・・。
こうなると、シェークスピアは、もはや殺し方を楽しんでるとしか思えません・・・。
うーん、シェークスピアの妄想が爆発しちゃっている感があるなぁ。
そして、シェークスピアの妄想は、ラストで大爆発です。
ラストは、タイタスが女王と皇帝を自身の邸宅に招き、食事を振る舞います。
そして食事が済んだところで、自分の娘が受けた仕打ちを皇帝と女王に話し、「汚された娘の名誉を守る」と言って、自らの手で娘の首をへし折り殺してしまいます。
あまりの展開にショックを受けた皇帝は、
皇帝:「タイタスの娘を陵辱した犯人たちをすぐさま捕らえよ!」
と叫びますが、
タイタス:「その心配には及びません。すでに、犯人はパイにして食べていただきました。」
と言って、女王の息子達の生首を食卓に運ばせます。
自分の息子を今し方食べてしまったことを知った女王は、真っ青になり、食べた物を吐き出そうとしますが、
タイタス:「自分の息子を食べた気分は、どうだ!」
と叫んで、タイタス自ら女王を刺殺します。
今度は、それに激怒した皇帝がタイタスを殺すものの、その皇帝もタイタスの息子の中で唯一生き残った長男ルシウスに殺されてしまいます。
・・・最後は、復讐劇に関係した人、ほとんど死んじゃう(殺される)って、シェークスピアもすさまじい結末にしてしまうものです・・・。
唯一、タイタスの長男ルシウスが、次の皇帝の座に就くという終わり方なので、多少、タイタスに救いを残した終わり方なのかもしれませんが・・・。
考えようによっては、復讐の愚かさ-「人を呪わば穴二つ」みたいな教訓が見いだせなくもありませんが、素直に見ると、シェークスピアが、大量殺戮な話を書いてみたかっただけのような気がします。
どうにも、他人のゆがんだ性癖を見せつけられたようで、話としてはかなり後味の悪い作品でした。
ちなみに、本作、ゴート族討伐などが出てくるので、おそらく4世紀から5世紀のローマ帝国(もしくは西ローマ帝国)あたりが舞台ではないかと思いますが、時代設定が話にほとんど影響ないので、あまり時代背景には意味がなさそうです。
映画では、現代劇のような舞台設定にしていたのですが、逆に、ローマ時代ではなく、アレンジし直して、現代の話にしても通用しそうな感じでした。